「ENTWINNER」のシン様より、当サイト開設の2周年記念に頂戴いたしました〜(o≧▽≦)ノシ
昨年、シン様のお誕生日に捧げたイラストが元になった、天界モノのパラレル作品デス!!
すいませっっ、私は登場人物の設定を見ただけで悶え転げ、後頭部打ち据えて致命傷(笑)
本当にありがとうございますぅぅぅぅぅ・゜・(PД`q。)・゜・今後が楽しみでなりませんっっ///
!!ATTENTION!!
このお話は、天界と魔界の争いを舞台にした神父の蔵馬と天使の飛影が主人公のパロディです。
お話の中にはとある宗教や神話等の用語が頻繁に出てきますが、実存する宗教や史実とは全く関係はありません。
<登場人物>--------------------------------------------------------------
◆盲目の神父(蔵馬)・・・小さな農村の教会で司祭を務める。
◆熾天使(飛影)・・・天界に住む天使。ミカエルに仕える。
◆ミカエル(躯)・・・三大天使の一人。天界におけるまとめ役。
◆ガブリエル(雪菜)・・・三大天使の一人。神の意志を伝える役。
◆ラファエル(雷禅)・・・三大天使の一人。今はほぼ隠居の身。
◆サタン(黄泉)・・・魔界の支配者。かつては天界で神に仕える身だったが、神に反旗を翻して堕落した。
◆ベールゼブブ(黒鵺)・・・魔界の四大実力者の一人。サタンの配下。
◆幽助・・・農村の住民。辺りの村を統括する村のリーダー的存在。
◆桑原・・・農村の住民。幽助と共に村を取りまとめるムードメーカー。
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これらの特殊設定を受け付けないという方は閲覧をお控え下さい。
大丈夫、OK!! という方は下へスクロール、GO!!
それは今から数千年も前のことなのか、それとも未来の話かは不明である。
その日、彼はただ上役から命じられるがままに下界へと下った。
彼の名は飛影。見た目は少しだけ目付きの悪い、どこにでもいそうなごく普通の少年だ。
だが、その背には人にはない純白の羽毛に覆われた大きな翼を有していた。
まだ朝靄が煙る中、飛影はとある田舎の外れにぽつんと佇む小さな教会へと辿り着いた。
音も無く地に降り立った彼は、その大きな翼を仕舞うと初めて来た場所にも関わらず、躊躇なく目的の建物へと入って行った。
豪奢な祭壇も華々しいゴシック様式の装飾も不要とばかりに、素っ気ない石壁とモルタルで出来たその小さな古ぼけたその空間は、とても礼拝堂と呼べるような
代物ではないように見えた。
宙を舞う埃さえ戸惑うような静寂の中、一人の男がそこに居た。
いかにも手作りしたような、荒っぽい造りのステンドグラスが嵌め込まれた小さな窓から差し込む光が、そこに佇む一人の人物を暖かく照らしている。
小さく唱えられる主を讃える声に伴って背を覆う深紅の髪が微かに靡くのを、飛影は息をするのも忘れて見入っていた。
・・・どうしてコイツの背には、翼がないのだろう。
質素な造りの十字架の前で膝を折り祈りを捧げていたその人物が、彼の存在に気付き立ち上がった。
糊のきいた飾り気の無い長いローブがさらりと動く。新緑の上で輝く朝露を思わせる大きな二つの瞳が、飛影のいる方向へ向けられ、優しく弓なる。
「こんなに朝早くから、何か御用ですか?」
飛影はその時初めて、彼の神の御技を知った。神の造りたもうた、至高の芸術品を目の前に。
* * *
天界と魔界の争いは、既に常態化して久しい。
完全に相反し拒絶し合う世界でありながらこうも果てしなく争いが続いているのは、
彼らの欲しがるものが全く同じだからに他ならない。
それは、人の「魂」。
魑魅魍魎の跋扈する魔界であれ、神の支配する崇高なる天界であれ、
彼らは互いに人の魂を手に入れることに貪欲である。魂の数が多ければ多いほどに、その者の持つ力は絶大になるからだ。
下界で言う所の、「金」と似たようなものと思ってくれればいい。そしてただの魂よりも、より力を備えた敬虔な信仰心を持つ者ほど価値がある。
悪魔が人を堕落させる事に長け、天界が救いと引き換えに人々に篤い信仰心を求めるのも、陰にはそういった事情があることを知っている人間はそう多くはな
い。
俺は今日、下界における要注意人物とされる中のひとりの調査に来た。
高い霊力を有し知識の深さにおいてはどの現役の司祭をも凌ぐと言われているが、
高みを望まずこの小さな教会でひっそりと神の教えを説いているという。
俺の調査内容は、「魔界からの手が伸びてきてはいないか、彼が堕落する可能性はないか」の二点だ。
天界が彼を戦力として欲しがっているというよりも、敵方に取られてなるものかというのが本音だろう。
お高くとり澄ましている高位の天使共だって、裏を返せば醜い権力争いに必死なだけなのだ。
「あと少しでミサが始まりますから、それまででしたら構いませんが」
まっすぐこちらを向いてしゃべっているのに、そいつの目線は俺の顔の少し上あたりでぼんやりとしている。
こんなに綺麗な瞳の色をしているのに、どうやらその網膜には何も映し出されていないようだ。
「お前、目が・・・」
初めて言葉を発した俺に、そいつは少し意外そうな顔をした。
その理由は聞かなくても分かるような気がする。それは俺にとってはあまり嬉しくない理由のはずだ。
そいつは小さく口元に笑みを湛え、ほんの少し目線を下げて言った。
「こんなに小さくて可愛らしい天使が来てくれたのは初めてですね」
俺は今、下界へ降りる天使に定められている厳格な規律に従い、人間の姿を模している。
しかもどうやら目は見えていないようなのに、どうしてそんなことが分かるのか。
「・・・よく、分かったな」
「まぁ、ちょくちょく天使は来ますからね」
己がどういう立場にあるのかは、一応は知っているらしい。
「だが、他の天使も皆人の姿で来るだろう?」
「だと思いますが、目が見えない者にとってはあまり意味はないのですよ」
こいつの説明によると、天使が来ると「空気」で分かるらしい。
天使が近くに来ると、盲いたはずの目に暖かな光が差し込みそれが辺り一面に広がるのだとか。
視力を失って初めて見える物もあるのだと言う。
「じゃあ、気を使うこともないな」
コイツは目が見えないし、俺の正体もバレている。
俺はすぅ、と大きく息を吸い込み胸を反らせると、仕舞っていた翼を出した。
バサッという音とともに、辺りに一陣の風が舞う。
急に舞い上がった風に、そいつは目を少し瞠って辺りをキョロキョロと見回した。
「何か、見えたのか?」
俺が見えている訳ではないのだと分かっていても、つい聞いてしまう。その宝石の奥で、一体どんな世界が広がっているのかを。
「あぁ、何て素晴らしい・・・。貴方に出逢えたこの縁を、神に感謝します」
胸の上で十字を切るそいつは、キラキラと瞳を輝かせてまだ辺りを見回している。
「貴方が翼を広げたとたん、それはそれは美しい光景が見えました」
・・・それを、一緒に見てみたい。
柄にもなくその時そう思った俺に、これから先俺が犯す罪の深さも重さも、何ひとつ知る由など無かった。
* * *
「飛影、ボサッとしてないで早くこちらに来て下さい」
夏の強烈な日差しがすっかり和らいできた、ある日の午後。盲目の神父は天から来た使いにそう言うと、籐で出来た大きな籠を抱えて後ろを振り返った。
「お前・・・仮にも天使に対する態度か、それが」
不機嫌そうな目付きをしたところで、こいつには一切見えてない。
だが、俺にだって威厳と言うモノがある。
仮にも天界においてミカエルの片腕とまで言われる地位にあるのだ。
こんな雑用まで押しつけられているなんて、他のヤツに知られでもしたら・・・。
「もうすぐお菓子が焼き上がりますからね。早く摘んで戻りましょう」
目の前を歩くそいつは、目が見えないと言う事を忘れてしまいそうなほどに優雅な物腰で、教会の裏手にあるハーブ園の中を進む。
歩きながらも、彼はいくつかのハーブを自らの手で手折っていく。
ペニーロイヤルミントにレモングラス、レモンバーム。セージを少しと、ラベンダーは保存用にだろう。
ここへ来るようになって、こいつの淹れるハーブティーに何度も付き合わされてる内に覚えてしまった。
「あぁ、いい香りがします。ちょうど咲き時だと思うんですが」
弾む声に目を上げると、ハーブ園の奥にあるひっそりとした薔薇の茂みの中にそいつはいた。
辺りには色とりどりの薔薇が大小咲き誇り、一面に甘く芳しい香りを放っている。
俺が来るとこいつは必ず俺をここに連れて来て、もっとも咲きの良い薔薇を選ばせるのだ。
「お前が選べば済む話だろうが」
「私は貴方に選んで欲しいんです」
「なんで」
「それは・・・ほら、その方が意外性があって楽しいでしょう?」
「チッ・・・面倒なヤツめ」
飛影は煩わしそうにそう言うと、それでも律義に辺りを埋め尽くす薔薇に目をやっているようだ。本当は飛影が帰った後、
飛影が選んだ薔薇の香りと共に過ごす時間が好きなのだと、正直に伝える事が彼はまだ出来ないでいた。
どの花も我が一番とばかりに咲き誇る中、飛影は薔薇を愛でる彼を振り返った。
少しだけ哀しげに優しく微笑むその姿こそが、真実の薔薇にふさわしい。
柔らかく風にそよぐ美しい紅髪に、数多の植物を支配する緑の色をした瞳。
飛影は、薔薇を選ぶという行為自体が何だか罪のような気すらした。
飛影は小さく溜め息を吐くと、とりあえず目の前でひと際大きく花開いていた一本の薔薇を選んだ。
別にそんな事などしなくてもいいのに、手渡す前に飛影はそっと薔薇の棘を落としてくれている。
その偉そうで生意気な態度の裏に、目の見えない自分への気遣いが確かにあった。
胸を満たす温かい感情に、つい頬が緩む。
ゆっくりと、深く息を吸い込む。手にした薔薇の香りで肺を満たし、その花のかんばせを想う。
「これは・・・」
闇に支配された瞼の裏に浮かぶ、ビロードのような美しい花びら。
深く濃い紅緋色をまとった、血のように赤い薔薇。
「・・・Le coupable」
あまりのその麗しさに全ての薔薇が霞んでしまうという事から付けられた、『罪深い』という名の薔薇。
元々は「美しすぎる事が罪である」という意味なのだが、今の自分には心臓を抉る言葉だ。
黙りこくっていると、飛影が声を掛けてきた。
「なんだ、気に入らなかったか?」
ぞんざいな口ぶりだが、ほんの少しだけ怪訝そうな、気づかわしい声音を見せる飛影。
おかしな話だが、盲いてからというもの相手の顔色は分からなくても、声を色で感じるようになった。
「いえ、そんな事はありません。とても爽やかで甘い・・・まるで林檎のような香りがしますね」
「・・・・・・そうか?」
興味など無いだろうに、自分の言葉に素直に薔薇の香りを嗅ぐ彼を、心底愛おしいと思う。
今までに出会った居丈高な天使達とは似ても似つかない、ぶっきらぼうで繊細で、誰より心の素直な、小さな天使。
・・・罪深きこの身を、明るく照らしてやまない。
「飛影は花の香りなんかより、窯のオーブンに入れてきたアップルパイの方が気になるんでしょう?」
「俺が食欲しかないみたいな言い方をするな!!」
笑い声と怒鳴り声が、花咲く園一面に響き渡る。なんでもないごく普通の、ありきたりな幸せな昼下がりだった。
To be continued...