「ENTWINNER」のシン様より、2013年3月の南野島訪問を記念して書いてくださいましたっっ(*´艸`)
まさかの歴史スペクタクルロマン!!! 個人敵にこの歴史的な世界観というものが大好物な猫乃は、
終始ドキドキ・ワクワクと悶絶させて頂きました///
飛影に仕える蔵馬という設定、メチャクチャおいしすぎるwwww
とっても二人の今後が気になる!!!!←
シン様、本当にありがとでした〜・゜・(PД`q。)・゜・
※歴史パラレルストーリー
今より遡ること、五百有余年。
この小さな島国がかつて王国として繁栄を極めていた頃の話である。
まだ夜も明けきらぬ正殿の中を、一人の青年が必死な様子で走り回っていた。ようやく目当てのものを見つけると、彼は息を整え服を正し、その小さな背中に声
を掛けた。
「王!!もう、随分探しましたよ」
「何だ、蔵馬か。何をそんなに慌てている」
「こんなに朝早くから姿が見えなくては、慌てるに決まっているでしょう」
「そんなに必死に探さなくとも、城のどこかにはいる」
「先月幽助に誘われて、こっそり城下へと忍んで行ったのはどなたでしたっけ?」
「・・・あれは何度も謝っただろうが。もう、あんな事はしない」
「王よ、その御言葉確かにお聞きしましたよ」
それにしてもこんな朝っぱらからこんなところで、一体何をしているのですか?全く貴方様は王としての自覚のかけらもないお方だから・・・。
その見目麗しい側仕え役の小言にも、彼は全く耳を貸す様子もない。王と呼ばれたまだ幼いとも言えるその少年は、西のアザナのへりに腰掛けながら遠い薄闇の
空を眺めていた。
「まだ、静かだな」
「夜明け前ですから。でも今日は大陸から使節団が来ますから、じき賑やかになるでしょう」
二人はしばし、言葉もなく西の海の彼方を見つめていた。
「さぁ、王よ。今日は大事な日なのです。何かあってはいけませんから、お戻りを」
「フン。誰もいないこんな所で、何があるというのだ」
「・・・王。いつも申し上げているではありませんか」
小さく溜め息を吐くと、蔵馬という名の青年はへりに腰掛けている少年の手を取り、その場に跪いて恭しく口を開いた。
「いくらこの国が今は平和だとはいえ、貴方様に暗殺の危険性がないとは言い切れないのです。まして今は倭の国の癌陀羅藩がこの国を窺っていると聞きます。
気を付けるに越したことはないのですよ」
「確かに、今攻めて来られてはこんな小さな国なぞ、いっぺんに消し飛ぶな」
「我々は、武器を持たない国。だからこそ、これまでどこからも敵視されることなくやってこられたのです」
あまりにも真摯な瞳で訴えかけられては、少年も渋々頷くしかなかった。
「・・・分かった。戻ればいいんだろ」
「王にお分かり頂けて、この蔵馬光栄の至りでございます」
その青年は少年を抱えて地面に下ろすと、全てを見通したような笑みを浮かべた。
「・・・こ、これで勝ったと思うなよ!!」
「私めが王に勝っただなどと、とんでもない」
身体を支えたままの青年の手を振り払うと、少年は正殿の方へと歩き出した。その少し後ろから、蔵馬と呼ばれた側仕え役が畏まって付いて歩く。
(ちくしょうめ、いつもこの手でやり込められるんだ!!いつかきっと、ギャフンと言わせてやる!!)
イライラと早足で正殿内へと向かう小さな背中を、その青年は微笑ましく見守っていた。
遠い東の空が、ようやく白み始めた。
* * *
「・・・・・・次」
「例の荷の件ですが、先週の悪天候の影響により搬入が遅れております。市井に出回るのは、あと半月程後になるかと・・・」
「何をしている。人でも何でも雇って急がせろ。清明祭まであと少しだと言うのに、市場が空っぽでは何も出来んだろうが!!」
「か、かしこまりました!すぐにでも手配させます」
「次ッ」
「かの癌陀羅藩より、再び督促状が届いておりますが・・・」
「無視しておけ。そんないわれのない年貢など、我が国が納める必要もない」
「しかし、それらを納めない場合さらに難儀な要求をしてくるのは必至かと思われます」
「あいつら、我が国が他国との貿易で潤っているのに目をつけて、ピンハネしようとしやがる!」
「王の御前である。発言は控えよ、桑原」
「しかし、我々だって実際は決して豊かな訳ではありません!!高い年貢の取り立てをしない代わりに、色んな国との貿易でやっとまかなえているのです
よ!?」
「そんな事は王もご存じだ。口が過ぎるぞ」
「も、申し訳ございません・・・」
上役に諭され意気消沈する桑原に、王の側に控えている蔵馬がそっと目線を配る。
(誰もが分かっている事を、口にすることも大切だ。君は間違っていない)
それに気付き、桑原もゆっくりと頷いた。
かつては友人であり仲間だった彼らも、成長しそれぞれの役職が与えられてからはその垣根は遠く隔たっている。しかし、心の底に通うものは何ら変わってはい
ないようであった。お互いに目配せを交わすだけで、言葉は無くとも通じ合うことができる。
「王よ。そろそろ午の刻になります。使節団をお迎えするご準備を」
「分かった」
そう言うと、王は御差床を立ち、奥の間へと消えて行った。
* * *
「桑原のヤツ、偉そうな口がきけるようになったもんだな」
「そんな事を言って、本当は嫌いではないのでしょう?昔から何度もやり合ってるのに、仲が悪くならないのは素敵なことです」
「フン、おかしな事を。しかし、桑原のヤツが士官して役人を目指すなぞ、思ってもみなかった」
「私はこうなると信じておりましたよ。彼もまた、国を思う気持ちは同じなのです」
「幽助の奴は、案の定下町に留まったがな」
「彼は彼で、民衆の代表となり頑張っておりますよ。民の目線から民を支える、彼にしか出来ないことです。あ、でも王は本当は幽助にも士官して欲しかったの
ではないのですか?寂しいでしょう、幽助がいないと。」
手際よく内着を着付けながらも口は止まらない蔵馬に、王は苛立ったように舌打ちを打った。
「・・・貴様、知ったような口をきく前に、さっさと支度を終わらせろ!」
「承知致しました。では、後ろを向いて」
本来ならばお付きの女官たちが王の身の回りの世話を行うしきたりだが、王は女官を嫌い一人も側へ寄せ付けることをしなかった。蔵馬は王の世話から政治に関
する指南役まで、全てを一手に任されている特別な存在なのである。
「そういえば、今日の神託はどうなっている?雪菜は何と言っている」
「この国最高位のノロ(神女)である聞得大君を呼び捨てなど、感心できませんね」
「聞得大君であろうと、妹には間違いないだろうが」
「・・・どうぞ、それは私が居る時だけにして下さい」
それを言うなら、とまだあどけない面影を残す王は首だけ蔵馬の方へと振り向いた。
「お前も、俺と二人の時だけは昔のように名を呼べと言っているのに、ちっとも聞かないな」
「そのような恐れ多いこと・・・」
「良く言う。昔は飛影飛影、としつこいぐらいに呼んでいたくせに」
「それは、昔のことです」
「今と昔と、俺は何も変わっていないぞ」
「変わって頂かなくては困ります。貴方はこの国の行く末を担う、たった一人の存在なのですから・・・」
「・・・誰も、望んで王になった訳ではない」
小さく呟くような王のその一言に、蔵馬は胸を突かれた。
王の名は飛影。十五にも満たないこの少年が王位を継いだのは、彼が五歳の誕生日を迎えた日だった。
王の母親は双子を産んですぐに亡くなり、父親である王も既に病気で没している。生まれながらに王となるべく運命を背負っていたその子供は身丈も小さく痩躯
ではあったが、誰にも屈する事のない強固な意志をその鮮やかな朱色の瞳に宿していた。
代々引き継がれるその瞳の色は、王家の証。
敬意を込めて、城の細部に至るまでその色が使われている。
小さい頃から気難しくて人付き合いが悪く、誰にも懐くことのなかった王が唯一心を許したのが、自分だった。大して身分も高くなかった自分がここまで出世出
来たのも、王の御愛顧があったからこそだ。
・・・陰で何を言われようと、オレは王を守るためなら何でもする。
「・・・蔵馬?」
もの想いに耽って、つい手が止まってしまっていた。
手早く帯を締め直すと、蔵馬は壁に掛けてある金糸銀糸で総刺繍がされた王衣を恭しく下ろした。背には、荘厳な龍の装飾が施されている。この国で龍は王その
もの、王家の象徴である。
古くから国交のある大陸の百足国の五本爪の龍に敬意を示し、この国の龍は爪が四本になっている。
「さ、これを羽織って終了です」
「まだ到着までには時間はあるのだろう?」
「早めに準備しておいて損はないですから」
「それはかたっ苦しくて嫌いだ」
「そんな子供みたいなワガママを言って・・・」
「そうだな、『飛影』と昔のように呼べば、今着てやろう」
先ほどのお返しと言わんばかりに楽しそうにふんぞり返る飛影に、蔵馬も苦笑を零した。
「今日だけですよ・・・さ、飛影。これを着て」
「フン、言えるじゃないか」
* * *
「王よ、この度はこのような盛大なお出迎えを心より感謝申し上げる」
「やめろ、貴様らしくもない。虫唾が走る」
飛影のとんでもない物言いに、周りにいた高官らが顔色を失くし震撼した。
自治権を与えられているとはいえ、事実隷属国に近い状態である下位の国側の者が許される発言ではない。お付きの武官の首が何個飛んでもおかしくない事態で
ある。
「王ッ!!今すぐ躯王女にお詫びを!!」
慌てて間に入り取りなそうとした蔵馬だったが、王女は高らかな笑い声を上げただけだった。
「相変わらずだな、飛影よ。昔っからその態度の悪さはちっとも変わらんな」
そう言って王女は飛影の首根っこを掴むと、ぐしゃぐしゃと鷲掴みにした。今度は躯王女のお付きの者たちの顔色が変わる番である。
この二人は小さい頃から交流があり、互いに気心の知れた仲である。
特に飛影は剣技に長け武芸に秀でている躯に秘かに憧れ、王女が来るたびに何度も手合わせを持ちかけては、その度にコテンパンにのされている。そんな二人の
仲の良さのおかげで、この両国の関係も今のところ平穏であると言えるのだ。
自分とは違って姉のように母のように王女を慕う飛影を微笑ましく思う一方で、微かな嫉妬を覚えずにはいられない蔵馬だった。
「王女。こたびはこの遠いところをよくぞおいで下さいました」
「お前も相変わらずだな、飛影の腰ぎんちゃくが」
「私の居場所は王の側だけでございますゆえ」
「ハッ、お前がそんなもので終わるタマか?」
躯王女の見透かしたような目線に、蔵馬は息を飲んだ。
別に王位がどうのこうのなどとは、一切思っていない。だが、自分がもっと政治に関与出来れば飛影もまた国民ももっと暮らしやすくなるだろうに、と思うこと
はしばしばあるのだ。
「恐れ多いことでございます。それより、こたびは来訪に少し間があったようですが本国の方で何かございましたか?」
「いや、別にウチは何とも無い。小さな部族間の争いはちょこちょこあるがな」
王女は何を思ったか辺りを見回すと、ちょっと耳を貸せ、と声を落とし蔵馬を呼び寄せた。
「何か?」
「癌陀羅には、気をつけろ」
それだけ言うと、王女は何事も無かったかのように宴の輪の中へ消えて行った。
海を隔てているとはいえ、百足国の情報収集能力は群を抜いている。「虫」と呼ばれるスパイが各国の中枢に潜り込み、国の高官から民衆の動向に至るまでをつ
ぶさに追っているのだ。
しかし、だからと言って王女直々にこうした重要な情報を落としてくれることなぞ、あるものではない。
もちろん癌陀羅藩の情勢に目を光らせてはいるが、今のところ特に変わった動きはなかった。こちらで把握しきれていない「何か」があるというのだろうか?
何か、嫌な予感がする・・・。
to be continuied...
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*西のアザナ(いりのあざな)=城内にある物見台。城内、城下町を一望できる。
*清明祭(せいめいさい)=大陸の清明節の影響を受けた祭り。親族が集って墓参し祖先を祀る。
*御差床(うさすか)=国王が座る玉座のこと。左右の柱には龍が描かれ、絢爛豪華な造りになっている。
*聞得大君(きこえおおきみ)=国における最高位の権力者である国王を守護する役目を持つ、国随一の神女。古くより妹は兄を霊的に守る存在であるとして、
王の姉妹から選任されてきた。命令権限を持つなど、非常に重要な存在であったとされる。選任権は王のみが保持していたと言われている。